2023年06月05日

俳句日記(833)

カレーライス

 我が家の日曜晩御飯は概ねカレーライスということになっている。昔は参考書と首っ引きで何十種類も香料を集めて作ったりしたが、今はもうそんな面倒なことはしない。ごくごく普通のカレーライスである。ハウスバーモントカレーなどという、料理マニアが軽蔑するような市販のカレールーを使う。というのも辛いものが苦手な山の神にも食べてもらわねばならないので、一旦「辛くないの」を作って取り置いて、それをベースに「辛いの」を拵える二段階調理をするので、まずは学校給食のカレーみたいなものにならざるを得ないのだ。
 とにかくカレーが好きで子供の頃からカレー作りに励み、70年の年季が入っている。あれこれやってきた経験から言うと、美味いカレー作りの秘訣は「大量の玉葱をじっくりと気長に炒めること」に尽きる。あとは、じゃがいもを一緒に煮込んでぐずぐずに煮溶かしてしまないことくらいであろうか。これだけを守れば市販のカレー粉とルーで十分美味しいのが出来る。
 私は鶏肉が一番好きで、次が牛肉、次が豚肉。マトンもとても旨いのだが、なかなか手に入らない。シーフードカレーも美味しいが、これはどろりとせずにスープカレー風にした方がいい。
 今日は豚肉しか無かったのでポークカレー。冷蔵庫から出した肉にカレー粉をまぶし、常温に1時間以上置いておく。玉葱を櫛形に切る。大きなものなら4個、小型中型なら5個。これで我が家の大鍋(直径25cm、深さ15cm)の八分目くらいになる。玉葱を入れる前に鍋に刻みニンニク3,4片分、クミン、フェンネル、コリアンダーパウダー、ナツメッグを入れて炒め、良い香りが立ってきたら切った玉葱をどさっと入れて、弱火にして木のシャモジでかき混ぜる。最初は玉葱が鍋からあふれるほどだが、やがてカサが減って来る。10分くらいたつと半分ほどになるから、ここで月桂樹の葉を5,6枚入れる。さらにさらに掻き混ぜ、炒め続ける。最低30分、手首が痛くなる頃、玉葱は狐色になり、あれだけあったのがソフトボールほどになっており、粘り気が出ている。炒め上がった玉葱ボール(これをケーキと呼ぶのだそうだが)に湯を1リットルばかり注ぎ、一口大に切った人参と固形スープの素を2個、白ワイングラス2杯注いでふつふつと煮る。
 一方、カレー粉をまぶしておいた豚肉をフライパンで焼く。焦がさぬよう、しかし焼色がつくくらいに炒め、オニオンスープの鍋に入れ、粉チーズを大さじ2杯入れて、ことこと煮込む。冷蔵庫の野菜室にしまい忘れていたセロリがあったので、それもサイコロに切って入れた。じゃがいもはきれいに洗って皮付きの丸のまま耐熱皿に載せ、水を少し振ってラップして600Wレンジに9分かける。人参が柔らかくなったら、肉も柔らかくなっているから、ここで市販のカレールーを3片入れる。溶けたら「山の神カレー」の出来上がりなので、別の小鍋に必要量を取り分ける。残った方にはカレー粉とガラムマサラ、チリペッパーを入れ、隠し味にアンチョビソースを大さじ1杯ほど入れる。
 大皿に御飯と薄皮を剥いたじゃがいもを載せ、その上からポークカレーを好きなだけかける。付け合せはサラダ菜とトマト、オリーブ、胡瓜。ズッキーニのチーズ焼き、塩らっきょう。さあいただきましょう。
  夏台風去ってカレー日和かな  酒呑堂   (23.06.04.)
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2023年06月02日

俳句日記(832)


86回目の誕生日

 まあ息をし続けていれば毎年必ず6月1日は巡ってきて、一つずつ齢を取る。別にめでたくも何でも無いのだが、令和5年6月1日は去年までとはちょっと違う思いにとらわれた。
 一つは、これまでになく齢を取ったなあという思いが強いことである。これは昨年暮あたりからめっきり体力の衰えを自覚するようになったことが素になっている。歩くのが遅くなったことが分かるし、通りから自宅への33段の階段を上ると息が切れるようになった。現役の会社勤めの頃は自宅から東横線反町駅までの700mばかりを7分で歩いていたのが定年後は10分かかるようになり、今では13,4分かかってしまう。つくづく情けないと、これまたガックリする素になる。
 二つ目は周囲の昔なじみが次々に居なくなってしまうことである。ことに昨秋から今年春に、敬愛する先輩の片野博司さんと黒羽亮一さんが亡くなったことが大きかった。片野さんは88歳、黒羽さんは94歳と、どちらも大往生と言っていいお齢なのだが、亡くなってしまわれると大きな穴が空いたような感じになる。そのほか、あの人もこの人もという感じでぱらぱらと欠けてゆく。
 三つ目は一つ目の「体力の衰え」と同じだが、ボケの兆候を身をもって知ることがめっきり多くなったことによる寂しさと悲しさである。物忘れが原因でつまらぬ失敗をしばしばおかすようになった。約束していた返事を忘れて催促されたり、財布を持たずに買物に出て恥をかいたりといった、小さな失敗なのだが、自分では「ああ昔はこんなことは無かった、ああ情けない」と落ち込む素になる。
 こういったことが重なるにつれ、ストレスが増して、ますます自閉症気味になり、老いぼれていくのであろう。
 しかし、それこそが「齢を取る」ことなのだから、「仕方がない」と割り切るべきではないのか、とも思う。老人の「開き直り」である。そうなってしまえば却って幸せだろう。しかしこれは傍が迷惑する。あたり憚らず勝手なことをわめき散らす老人がいる。先日もあるパーティで主催者が挨拶中に「そんな話を長々しゃっべているのは無駄だ、迷惑だ云々」とヤジリ飛ばす老人がいて周りをはらはらさせた。そのお人は丁度90歳。本人はすこぶるごきげんだが、周囲は辟易する。そんな風にはなりたくないなあと思う。
 86歳というのは90歳への最後のコーナーを回ったところだ。少し欲が出てきて、できれば90歳まで生きたいなと思うようになっている。しかし、寝たきりになって介護看病に人さまの手をわずらわせたり、元気は元気だが「わめき老人」になって傍に迷惑を掛けることもしたくない。どうすれば元気に生きて、ひっそりと静かに死ねるのか。これからの4年間はそれを考えながら生きて行こう──山の神が「お誕生日おめでとう」と用意してくれた大森の老舗鰻屋村上の大蒲焼を食べながらそう思った。
   六月や卒寿の坂に取りつきぬ   酒呑堂  (23.06.01.)
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2023年05月31日

俳句日記(831)


足元ご用心

 昨日30日と今日31日は先週突然死んだ義弟の葬儀で忙しない二日間だった。あろうことか公道の石段で足を踏み外して転げ落ち、頭を打って、あっけなく他界してしまったのだ。わが山の神の妹の亭主で、今年数えで傘寿という、まだまだ元気な男だった。
 妹夫婦の住まいは大田区馬込。大森駅から南西方向に広がる馬込一帯は、太田道灌が最初はここに江戸城を築こうとしたという伝説があるくらい、山と谷が入り組んだ複雑な地形である。だから義弟も日頃階段の上り下りには慣れているはずなのに、これこそ魔が差したというのだろう、夜10時ころ地下鉄馬込駅を出て自宅方向へのバスの走る上の道へと階段を上った。折悪しく梅雨の先触れのような通り雨で濡れていたのだろう、足を滑らせたかつんのめったか、倒れて、真っ逆さまに下の道路に叩きつけられた。幸い通行人がいて、119番してくれて、すぐに救急車で最寄りの医科大学病院に運ばれたが、すでに絶命していたという。
 「ゴゼンサマなんてめったに無いのに、おかしいわね」と不審がっていた妹に、未明に警察から電話が架かってきて、初めて重大事故発生が解り大騒ぎになった。本人、日頃は慎重なのに、どうしたわけかこの日は身元を明らかにする手帳その他を身に付けていなかったらしい。毎日、書斎代わりにしている麹町のワンルームマンションに散歩がてら通っていたものだから、気軽に手ぶらで出たのだろう。さすがに警察は、友人か誰かの名刺か何かを見つけて、手繰ってくれたらしい。
 しかし、病院に担ぎ込まれた時にはすでに絶命。ということになると、司法解剖が必要になるらしく、それらの手続きやら何やらでかなり大変だった。
 とにもかくにもすべてが終わった。一同、悲しいとか何とかと言うより憑き物でも落ちたような感じである。
 「お兄さんもどうぞお気をつけて」と二三人から言われた。たしかにそうだ。3,4ヶ月前には自宅の階段を転げ落ちて肩と足をしたたか打って、気を失いそうになった。先月は菜園を掘り返していてつまづき、ずってんどうとひっくり返った。「蹴つまづく我を笑ふか踊子草 水牛」なんぞとうそぶいていたのだが、しゅんとなってしまった。
 明日6月1日で満86歳である。これ以上バカをやっていると、笑われるだけでなく誰にも相手にされなくなるだろう。しばらくは大人しくしていよう。
   石段を踏みしめ上る梅雨湿り   酒呑堂  (23.05.31.)
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2023年05月29日

俳句日記(830)


杏ジャムをつくる

 走り梅雨というものであろう、朝からぐずぐずした天気で時々不景気な雨がしょぼつく。庭の東端の隣家との境に植わっている杏の大木から黄色く熟れた実がぽたんぽたんと落ちる。
 この杏は40年ほど前に亡兄がひょろりとした苗を2本買って来て植えたものだ。人の背丈ほどに伸びてきれいな花を咲かせ、やがて梅よりずっと大きな実を付けて、それがだんだんオレンジ色がかった黄色味を帯びて熟す。みんなが「きれいね」と持て囃していたうちは良かったが、やがてぐんぐん枝葉を茂らせ、てっぺんは二階の屋根を越すほどになった。兄は植えたら植えっぱなしという人だったから、その木の剪定作業はいつの間にか私の役目になってしまった。花が咲けば「杏の花は梅よりもいいなあ」、実が熟せば「うん、素朴な味でなかなかいい」なんて言っている。その兄も死んでしまってもう7年になる。
 杏はそれほど甘くもなく、さしたる香りがあるわけでもない。まさに「素朴な味」である。家の誰も食べない、亡兄の長女も「いらない」と言う。
 今年は季節の進むのが早いようで、いつもは6月の声を聞いてから落ち始めた杏が3,4日前からしきりに落ち始めた。放っておくわけにもいかない。雨が小休止したのを見計らって大梯子を担ぎ出し、杏採取を兼ねて伸びた枝の伐採作業をやった。二本の木から合計60個ばかり穫れた。その内、傷ついて腐りが生じたものや虫食いを捨てて、いいもの45個を大鍋に入れて火に掛ける。杏ジャムを作るのだ。
 杏はほぼ2キロ強ある。同量の砂糖を入れるのが常識だが、食料庫を探したらキビ砂糖が800グラム、白砂糖が1キロあった。まあこれだけでいいだろうと、それを杏の入った大鍋にぶち込む。杏から出てくる水分で十分なのだが、最初に少し差し水してやると早く煮崩れる。こうしてグツグツと、焦がさないように煮込む。ガス台の前に椅子を据えて、そこに腰掛けて、木のシャモジで時々混ぜる。辛気臭いが、ジャム作りのコツはこの「気長に」ということだけなのだ。
 やがて杏は煮溶けて、実がぐずぐずになり、固くて扁平な種子がはずれる。すべてがそうなったら、一旦火を止めて、とろとろになった杏を種子ごとステンレス網の味噌漉しに入れて、小さなすりこ木でかき回して杏ジャムの元になるドロドロの汁と種子を分ける。汁をホーローの鍋に取って、これにレモンの絞り汁を入れて、また火に掛けて煮詰める。この最終工程が重要。うっかり焦がしてしまえばオジャンになる。ゆっくりかき混ぜながら適当な濃度に煮詰める。煮詰め過ぎると、瓶詰めにして冷えるとサジも入らないほど硬いものになってしまう。
 「まあこのへんだな」と火を止めて、熱いうちにジャムの瓶に詰めた。触れないほど熱いやつを詰めて蓋をすると、冷えるに従ってきゅっと締まり密閉状態になる。これはもう常温でも腐敗しない。
 出来上がって6時間ほどたったものを試食してみた。どうも煮詰め方が足りなかったようで、ジャムと言うよりはケーキの上にかけるどろりとした蜜のような感じのものになった。でも味はいい。「美味いか、うまいだろう」と聞く。答えない限り何度でも聞くから、山の神は「おいしい」と言って向こうへ行ってしまった。
  杏ジャム煮詰まる音や梅雨の入   酒呑堂  (23.05.29.)
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2023年05月28日

俳句日記(829)

俳句日記(829)
鉄人照ノ富士

 大相撲夏場所は横綱照ノ富士が14勝1敗で見事に優勝した。あのガタガタの両膝でよくもまあと驚くばかりである。初日の小結正代に土俵際まで押し込まれ、すくい投げで窮地を脱した相撲を見て、さすがは立派なものだと感心しながらも、まあ10勝5敗で乗り切れれば御の字だと思っていた。しかし、今場所揃って元気な充実した関脇陣を料理し、復活に意気上ル朝乃山を子供扱いにしての優勝である。この横綱の精神力の強さには本当に頭が下がる。ガッタンガッタンと鉄人何号とかいうロボットみたいな動きなのに、本当に強い。
 両膝の具合はやはり良くないのだ。表彰式で優勝旗を受け取って一旦土俵を降りる時など付け人に支えてもらっていた。場所中には絶対に見せなかった姿だが、もう頑張る必要は無いというわけだろう。これを見ても、場所中は我慢に我慢を重ねて居たことが分かる。
 15日間の相撲を改めてネット検索で見てみると、9日目に前頭6枚目の明生との取組以外はすべて「動かない」ことに決めて相撲を取ったことが分かる。相手が押したり引いたりするのに合わせて必要最小限の動きはするものの、基本的に自らの武器である両腕の「締付け力」を信じて、相手をがっしり掴まえ動きを封じ、じりじりと追い詰めて行く相撲に徹した。これが功を奏した。
 これで照ノ富士は優勝8回。自ら「10回優勝したい」と言っているから、まだ引退するつもりは無いようだ。しかし、7月の名古屋場所はどうなるか。何しろ7月の名古屋はただ座っているだけでも暑い。それに妙に湿気があり、気持の悪い暑さだ。夏場所の劇的復活優勝で完全に大相撲の一枚看板になったから、地方巡業にも行かないわけにはいくまい。贔屓筋への挨拶回りや宴会などでも忙しくなろう。傷んだ膝を養生するひまも無く名古屋入ということになる。群雄割拠の関脇・小結、前頭上位陣は今場所のビデオを十分見ながら、巡業や出稽古を通じて照ノ富士攻略法を練るだろう。名古屋場所が照ノ富士の正念場となろう。無理をすると膝を決定的に傷めてしまい、引退への道を辿らざるを得なくなる恐れがある。
 霧馬山は大関を確定的にした。大関になっても大負けはしない「名大関」になりそうだ。しかし、千秋楽は気が緩んだせいか、豊昇龍相手に甘い相撲を取って負けた。ここは思い切り叩きつけて置かなければいけなかった。これで来場所以降、豊昇龍がライバル筆頭になる。
 期待の若元春はいい相撲を取った。膝を傷めて休場中の弟若隆景を完全に追い抜いた。名うての遊び人だそうだから、これでいい気になって怠けたりすれば問題外だが、さもなければ大関になれそうだ。
 朝乃山は12勝3敗と、終わってみれば“準優勝”の星を上げた。千秋楽の相撲に勝って、いかにもほっとした表情を浮かべていた。しかし二年間、下の方に居て弱い相手とばかり相撲を取ってきて、幕内に復帰したばかりだから仕方がないのだが、まだまだ取口が甘い。今場所、怪力の北青鵬や照ノ富士に簡単に放り投げられたり、大栄翔のようながむしゃらの押しに為す術がなかった。器用な相撲取りではないから規格外の相撲を取られると対処できなくなってしまうようだ。7月場所で幕内上位に上がって来て、このあたりをどうこなすかが「大関復活」への道が拓けるかどうかの鍵だ。
 ともあれ、今場所は照ノ富士と朝乃山、それに若元春という好きな力士が揃って好成績を上げたので嬉しい。
  夏場所を制す不死身の照ノ富士   酒呑堂  (23.05.28.)
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2023年05月16日

俳句日記(828)

おさんどん

 毎日午後3時頃になると、山の神が「今晩何にする」と聞きに来る。そして必ず「どうして一日三回御飯食べなきゃいけないのかしら」と言う。「宇宙船に乗って行く人って、錠剤とかチューブみたいな御飯だそうね、ウチもそう出来ないかしら」とつぶやく。「そんなものしか食えなくなったら死んだ方がましだよ。おいしい料理を考えて、作って、食べるのが楽しいんじゃないか」「じゃ貴方考えてよ」 かくて、いつのまにか献立立案が日課となった。自然の流れとして、献立の材料を買い出しに行く役目も負うことになる。近隣商店街では“お使いじいさん”としてだいぶ顔が売れてきた。
 さて今夜のおかずはなんとしょう。夕べは近所のスーパーでイキの良い鰯を見つけたので、それの梅煮をこしらえた。梅干は水牛製で、ひと様に差し上げられない潰れ梅が沢山ある。下処理した鰯6尾を酢を入れた湯で5分ほど下茹でするのがコツだ。これで生臭さが飛ぶ。それを醤油、酒、みりん、砂糖少々と梅干の潰したの3粒と生姜の薄切り4,5片を入れた煮汁で、ゆっくりふつふつと7,8分煮含めれば出来上がり。これとゴーヤチャンプルーと若布の味噌汁に小松菜のお浸しが昨夜の献立。
 だから今晩は肉がいい、というのが山の神の御託宣である。「うーん、じゃあ今晩は獅子頭でも作ろうか」「なにそれ」「なにそれって、一昨日、これ美味しそうねって、朝日新聞の切り抜き持って来たじゃないか」「あらそうだったかしら」。
 山の神はひとに作らせるために、料理記事を新聞雑誌からやたらに切り抜いて来る。この「獅子頭」というのは中国の家庭料理なのだろう、豚肉団子の揚げたのを野菜と煮込んだ、滋味深い料理である。その切り抜きを見せられて、昔、馴染みだった横浜中華街の裏通りの小さな上海料理店のおばさんの獅子頭を思い出した。その店は観光客とは無縁の、中華街の地元の人達が食べに来る店である。テーブルの表面は黒ずんで脂でぎとぎとしている。おばさんの獅子頭は、平たいドンブリに青梗菜やキャベツが敷かれ、その上に野球のボールくらいの茶褐色の肉団子がでんと座り、茶褐色のどろりとしたタレがかかっている。見た目は良くないが、獅子頭を割って、口に含むとじゅわーっと旨味が広がって、こんな旨いものがあったのかという感じを受けた。おばさんの亭主の名料理人は死に、息子はなにかいい仕事を見つけたのか店を継がず、10年ほど前おばさんは寂しく店を閉じた。
 朝日の記事のレシピは、おばさんの獅子頭よりだいぶ上品だ。とにかくそれを基本に、おばさんの獅子頭を思い出しながら、少々アレンジして作ってみた。
 豚バラ肉のスライス500グラム、豚もも肉スライス200グラムを幅5ミリくらいに切り、それを横にしてさらに5ミリくらいに切り刻む。そしてトントンしつこく叩く。つまり、挽肉に近い「刻み肉」を作るわけだ。挽肉を使ってしまえば簡単なのだが、どうも挽肉で拵えたのと刻み肉のとでは味わいが違う。機械でぶりぶりと均一に挽いてしまうのと、包丁でとんとん叩き挽肉状にしたものとは味の染み出し方が違うようなのだ。
 この叩き肉に、長ネギ半本、生姜一片、水に戻してふやかした干椎茸4枚、れんこん4,5センチをそれぞれみじん切りにして加える。そこにホタテ貝柱水煮缶詰2缶を入れ、塩小さじ半分、醤油と紹興酒大さじ1杯、砂糖小さじ1杯、片栗粉大さじ3杯、卵2個を割り入れ、胡椒ぱっぱと振り入れて、十分に練る。これをボール状に丸め、卵の白身に片栗粉を混ぜて練った粘液をくぐらせ、170℃くらいの油で揚げる。
 方や、大鍋に鶏ガラスープにみりん、砂糖、醤油、紹興酒、五香粉を入れて調整した煮汁を拵えておき、そこに揚がった獅子頭を入れてことこと20分ほど煮込む。味がしみたのを見計らい、片栗粉を溶き入れてとろみをつけ、ごま油を少々注ぎ、予め茹でておいた青梗菜をくぐらせて出来上がり。
 とてもよく出来た。中華街バアサンの獅子頭にはクワイを入れるのが秘訣のようだったが、今どきクワイは見当たらず、れんこんで代用したがうまくいった。山の神も「おいしい、おいしい」と満足げだった。
  青葉雨さて今晩は何食ふか   酒呑洞水牛  (23.05.15.)
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2023年05月15日

俳句日記(827)


コロナ明け夏場所は面白そうだ

 5月14日(日)大相撲夏場所が始まった。やはり相撲は5月の夏場所と9月の秋場所が面白い。隅田川と両国国技館という舞台装置がいかにも似合っているのだ。ことに今場所はコロナが収まって入場制限無し、マスクもしたくない人はしなくてもいい、贔屓力士への声援や掛け声も自由ということで、初日から満員御礼の盛況となった。
 それに眼目の取組内容が充実している。4場所休場の続いていた横綱照ノ富士が出場し、キャバクラ通いが咎められて6場所出場停止処分を受けた元大関朝乃山が三段目から這い登り、ようやく3年ぶりに幕内に戻って来たからだ。それに加えて、剪場所優勝した関脇霧馬山が今場所10勝すれば大関になれるというので張り切っている。弟に先を越されたもののようやく追いついた関脇若元春が本当に強くなってきている。さらに、憎らしいほど強かったモンゴル横綱朝青龍の甥で、負けん気の強い豊昇龍も大暴れしそうだ。というわけで、このところ沈滞気味だった土俵がにわかに活気づいた。
 心配していた横綱照ノ富士は、まずは初日を無難に乗り切った。相手が芸のない小結正代だったのが幸いだった。立つなりがつんとぶち当たって来るのは織り込み済み。横綱はがっちり受け止める。しかし今日の正代はやる気十分で、その後もはず押しでぐいぐい押し込む。しかしいかんせん腰高で、しかもワキガ甘いから横綱に右を差され、土俵際であっさりすくい投げを打たれてしまった。
 照ノ富士はともかく5場所ぶりの本場所の初日を白星で飾り、ほっとしたことだろう。二日目はがむしゃらに突っ張って来る苦手の阿炎なので、これに勝つと調子が出て来るかも知れない。水牛としては照ノ富士は出て来るのが2場所早かったと思っている。両膝の治療とリハビリには丸一年かかると言われていたのだから、今場所と次のクソ暑い名古屋場所も休んで、9月秋場所から再出発するが良いと思っていた。貴花田や稀勢の里など長期休場の前例はある。中途半端な状態で引っ張り出して、照ノ富士という名横綱になれるはずの逸材を潰してしまうのはもったいない。しかし、もうこれ以上メダマの無いまま興行は続けられないと焦った相撲協会の要望があったのかどうか、出場に踏み切った。そうなったからには今場所は無理はせず、五つ六つ負けてもいいといった感じで相撲を取ってくれればいい。
 霧馬山は強い。初日は気鋭の翠富士に立ち会い鋭く押し込まれ、思わず引いた。並の力士ならそこを付け込まれて押し出されてしまうのだが、脂が乗っているというのか、二の矢がすぐに出せる。翠富士の押しを受け止めるとすぐさま引き落とし、止めを刺そうと押し込んだ翠富士はあえなくつんのめった。
 久々幕内登場の朝乃山はまだ前頭T4枚目と尻から数えた方が早いのだが、まるで大関だ。一癖も二癖もある千代翔馬を全く問題にせず、立つなり得意の右を差すと左上手を取れないままぐぐっと寄り立てて、そのまま寄り切った。今後は気を抜いた立会いなどして相手十分を許したり、雑な投げを打って墓穴を掘らない限り連勝して、優勝候補になるのではないか。
 もう一人は関脇若元春だ。初日は相撲巧者の遠藤が相手だったが、相手に何もさせず、ベテランのような実に巧い上手出し投げで転がした。弟の大関最有力候補だった若隆景が先場所、膝を故障し今場所は出場不能となったが、それに取って代わる大活躍をしそうだ。
   寄せ太鼓五月の風の隅田川   酒呑洞水牛  (23.05.14.)
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2023年05月11日

俳句日記(826)


ナマズよ暴れないで

 日本中が揺れている。5月11日早朝は驚いた。前の晩、俳句例会への投句を忘れていたのを思い出してうんうんうなったり、ブログ「みんなの俳句」の更新作業をしたり、自作の添削を求めて来たメールへの返信をしたりしているうちに、すっかり夜更ししてしまった。さっと一風呂浴びて、黒霧島のオンザロックを一杯、最後のメール点検をやって、さてと午前3時過ぎ、いい気持でベッドに横たわった。
 白河夜船というのだろう、ぐっすり寝ていたところにズッシーンと来た。半身起こして寝ぼけていると、ドアをノックする音がしてネタロウが「お父さんダイジョブか」と顔をのぞかせた。「うん、ダイジョブだ。ありがと。だいぶでかいな」。隣のベッドを見ると山の神は毛布をかぶって動きもしない。「まったく、気が付かないのかなァ」と半ば呆れて大声で言ったら、「気づいています。房総半島南部が震源、神奈川区震度4」と答えて、また静かになってしまった。
 何が怖いと言って、地震ほど怖いものはない。何しろ自らの拠って立つ大地がぐらぐら揺れるのだから、これほど恐ろしいものは無い。ぐらぐらっと来ると、もうどうしようも無い気分になってしまう。まだ現役で働いていた頃から、この地震恐怖症は誰にも言わないのに周囲に知れ渡っていた。グラグラっと来ると無意識に立ち上がって、ふらふらし始めてしまうのだ。ある時は、「ダメっ、動いちゃダメっ」と、エレベーターホールに向かってふらふら歩き出したところを水兎さんに抱きかかえられたこともある。大地震でエレベーターに乗るなど正気の沙汰でないことは理屈では分かるが、グラっと来たら理屈も常識も吹っ飛んでしまうのだ。
 というわけで、水兎さんが神田明神で受けてきてくれたナマズのお守りと、守本尊である虚空蔵菩薩の懐中仏を肌見放さずつけている。
 AIだなんだと、これほど科学的知識の発達した世の中でありながら、地震の予知は全くと言っていいほど不可能である。「緊急地震速報」などと偉そうなことを言っても、ほんの数秒前だから、ほとんど役に立たない。
 とにかく最近やたらに地震が多い。数日前には能登半島で大きな地震があり、昨日も千葉県北西部震源の震度3の地震があった。今朝の千葉県南部の地震に続いて、昼頃には鹿児島県トカラ列島付近で発生、午後6時52分には北海道日高地方、同56分には沖縄本島近海と、東西南北揺れ動いている。
 地震学者は「今回の(千葉県の)地震が首都直下型M7の大地震の前触れとは言えません。しかし、それが起きないとも限りません」という。つまりは「何もわかりません」ということなのだ。
 しょうがない、ナマズのお守りを撫でさすっているより仕方がない。それにしても気になるのは都心や東京湾岸に続々と立つ超高層マンションだ。「震度7以上でも大丈夫」というが、誰が保証しているのか。まあ私は買うつもりも金力も無いが、直下型地震で超高層ビルががらがら崩れ落ちる地獄絵が瞼の裏に浮かんで、他人事ながらウナサレそうである。
  雷公に地震なだむること願ひ   酒呑堂  (23.05.11.)
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2023年04月25日

俳句日記 (825)


 苗植える

 昨日、今日と日中でも16,7℃にしかならず、また冬に逆戻りしたかの天気だが、それでも歩いていると熱くなってくるから、やはり春である。明後日あたりから日中25℃になるという。
 そろそろ果菜苗の植付け時期になった。午後、サカタガーデンセンターに行く。ここも今年いっぱいで閉店だという。これだけの大きなスペースを花と植木の販売だけでは費用対効果から言って話にならないと踏んだのだろう。倉庫の方なども合わせれば千坪くらいありそうだ。横浜駅に歩いて行ける距離だから、マンションにでもすれば大儲けだろう。寂しいことだが已むを得ないことかも知れない。
 今日は火曜日で老人割引、パンジーカードというのを見せて65歳以上ならば苗でもなんでも10%引きになる。だから火曜日の客はジイサンバアサンばかりだ。胡瓜3本、茄子4本、ゴーヤ2本、ピーマン2本買った。全部で4700余円、割引が無ければゆうに5千円を超す。一時に比べると野菜苗もずいぶん高くなった。「病害虫に強く、連作障害も受けにくい接ぎ木苗ですから」と売り子は言う。カボチャなど頑強な台木に純良種の胡瓜や茄子苗を接ぎ木してある。まあ効果はさほどあるとも思えないが、おまじないよりはましかなといった感じで買ってくる。
 菜園はもう二週間前から耕し終わり、堆肥などを施した植場所が出来ている。苗を植える場所には目印となる添え木が立ててある。ポットから抜いた苗を植えて行く。苗は高さ17,8cm、葉が4,5枚ついた、なんとも頼りないひょろひょろである。だから菜園に定植してみると、空間ばかり目立ってなんとも寂しい。そこでついつい沢山の苗を植え込んでしまう。これが失敗の元で、夏場に旺盛に茂ってくると収拾がつかなくなる。枝葉が混み合い、そのままにしておくと風が通わなくなり、むれてしまい、たちまち病害虫に取り憑かれてしまう。というわけで、苗と苗の間は最低1mは空けなければいけない。
 胡瓜はサカタご推奨の「ずーっととれる」とトゲなしの「フリーダム」、四川省原産の細かい棘のある四葉胡瓜の改良品種で味の良い「味さんご」の3本。茄子は果肉が柔らかく食味の良い長茄子「飛天長」、ごく普通の茄子「黒福」と「黒ぶり」、小ぶりの実を沢山つける「ごちそう」の4本、ピーマンは「あきの」2本、ゴーヤは小ぶりの実の「えらぶ」と「あばし」の2本。
 植え終わってのビールの美味しいこと。もうモロキュウなど思い浮かべている。
  胡瓜茄子植えて神様仏様   酒呑堂  (23.04.25.)
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2023年04月10日

俳句日記(824)


恥を知れ

 4月9日(日)、うららかに晴れ上がった日曜日、菜園の耕しをはじめやるべき事はたくさんあるのだが、統一地方選ということで、昼下がりの一刻、老妻と連れ立って山の上の中学校まで出かけた。春の陽射しの下往復30分ばかりの散歩は気持が良かったが、これによって仕事が中途半端になった上に、選挙そのものは始めから解っていたものの、話にもならない下らないもので、なんだか大損したような気分になった。
 投票したい候補者が市議会、県議会、県知事候補のいずれにも皆無なのである。しかし「棄権」というのは民主主義を自ら放棄する行為であるから、ゴミ溜めの中から何とか拾うべきものを探さねばならぬと、出かけた。そのために前もって退屈な選挙公報をじっくり読んだ。日本語の文章がちゃんと書けない人もいる。何のために市政、県政の場で働こうとするのか意図が定かで無い人もいる。瓦礫混淆の中から市会議員と県会議員には立憲民主党の現職議員を選んだ。二人共まだ若くて、日頃駅前に立って一生懸命に演説している姿にやる気を感じたからである。
 しかし、県知事がどうにもしょうがない。既に三期も、これと言ったことを何もやらなかったくせに、自民公明、あまつさえ立憲民主党までが推している黒岩某が、もう開票するまでもなく当選確実である。それが、投票日直前に週刊誌が過去の不倫を暴いた。フジテレビのキャスターをやっていた頃から、神奈川県知事候補として自民党に担がれるまで11年間も囲っていた愛人を、知事選に出るために振り捨てたというのである。当然のことながら女は怒った。怒りにまかせて黒岩夫人に恨み言や黒岩のあれこれを書いた手紙を送りつけたという。そうした経緯を週刊文春が素っ破抜いたのだ。黒岩が女に送ったメールまでが公開されている。読むに耐えない愚劣な戯言である。
 こういうものが明らかになったら、男児たるもの潔く身を引くべきだろう。男と女の関係にはいろいろある。水牛とて清廉潔白と胸を張り通す自信は無いが、こういう愁嘆場を演じて、それをもみ消してまで首長に踊り出る鉄面皮は持ち合わせていない。黒岩は一体どうするのかと見守っていたら、記者会見を開いてその事実を認め、県民の皆さんのご判断を仰ぐと言ってのけた。まあ政治の世界だからあれこれあるのだろう。それに投票日直前に「立候補取下げ」などをしたら大混乱になる。後の泡沫候補が知事になったらそれこそ県民の不幸である。ここはまあしょうがない、神奈川県民は「不倫知事」を戴くより仕方がない。
 しかし、知事に就任して数ヶ月たったら、黒岩は「辞任」すべきだろう。こんな破廉恥な事情を暴露されて便便と首長を務めるのは恥ずかしい。しかし、当人は「選挙を経た」として、いわゆる「禊を済ませた」ということで、このまましゃあしゃあと居座るに違いない。
 ところで「水牛は投票用紙に何を書いたのか」ですって? 「恥を知れ」と書きました。無効投票が前代未聞の数字になることを願って。
  葉桜によしなしごとをつぶやきぬ   酒呑堂 (23.04.10.)
posted by 水牛 at 00:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする