やれやれ(その3)
横綱日馬富士による平幕貴ノ岩暴行事件は鳥取県警の取り調べと相撲協会の調査が行われ、先日この欄に書いたような線で進んでいるようだ。とにかく、大相撲という、祭祀とスポーツが渾然一体となった日本独自の行事が、ITだロボットだという新時代にもなんとか生き残れるようにと願っている人間にしてみれば、つまらぬ諍いが因で潰れるようなことがあってはならない、そんなことにならないようにと祈るばかりである。
その為には、大相撲の場所そのものがしっかりと行われねばならない。年六場所がそれぞれ白熱した取組を繰り広げて大いに盛り上がれば、仲間内の喧嘩や協会幹部の勢力争いにまつわるもやもやなどは雲散霧消してしまうのだ。
ところが現状はその反対。いま終盤戦の九州場所は、まさに目も当てられない状態に陥っている。久方ぶりの日本人横綱稀勢の里は危ぶまれた通りの窮地に立たされてしまった。初日、これまでカモにしていた玉鷲にもろくも敗れると後はぐずぐず、十日目にはこれまた負けたことがない宝富士にも投げられて、あえなく休場に追い込まれた。新横綱としての今年春場所こそ驚異的な逆転優勝を飾って驚かされたが、その後は何と四場所連続休場である。これで来年1月の初場所で思わしくない成績であれば早くも引退ということになろう。そして、同じように休場を繰り返している横綱鶴竜も初場所が正念場。暴行事件の日馬富士はこのままでは到底、正々堂々土俵入りが出来るとも思えない。
そうなると残るは白鵬一人。この横綱は憎らしいほど強く、しかも鍛錬を欠かさないのだろう、身体も実にしっかりしている。「何だお前ら」というようなふてぶてしい面つきが面白くないが、やはり今日の大相撲を背負って立つのはこの男しかいないと思っていた。
ところが、今日22日、十一日目の結びの嘉風との一番で心底ガッカリした。立合、嘉風が意図したのか偶然か半呼吸遅く立ったせいで、白鵬のふところにすぽっと潜り込め、もろ差しになれた。白鵬はその瞬間、何を考えたのか力を抜いた。嘉風はそのままぐいぐい寄り、白鵬の投げも遅くそのまま寄り倒して、白鵬の全勝にストップをかけた。その後がいけない。土俵下に落ちた白鵬は片手を上げ、「勝負不成立」のアピールをしたのだ。大相撲では行司が第一次の審判者であり、その正否を判断する土俵下の五人の審判(検査役)が最終決断をする。力士はそれに絶対服従しなければならない。この勝負では行司判定は嘉風、検査役もそれを可として動かなかった。白鵬は「待った、だと思った」としてアピールしたのだが、自身もちゃんと立ってしかも相手に得意技のカチ上げまで見舞っている。これでは戦いが始まったものと見做されて当然である。
にも拘わらず、白鵬は勝負後いつまでも土俵下に留まり、検査役に促されて土俵に上がっても取組後の礼も交わさず,嘉風が勝名乗りを受けるのを睨めつけていた。実に見苦しい振る舞いだった。この一幕だけで、これまで「白鵬は日本の大相撲の人間になった」と思っていたのが間違いだったことが分かった。やはり白鵬は「日本的風土」とはほど遠いところにいるようだ。
第一人者がそうなると、今後の大相撲はどうなるのか。またまた、フラフラ横綱稀勢の里よ、何とかならないのかよ、という処に舞い戻るのである。