2018年08月14日

俳句日記 (418)



雲の峰と雷電 (8)
大酒吞み(その2)

 寛政10年(1798)、芝神明社での春場所で8勝1無勝負1休で優勝相当の成績を挙げた雷電は、6月に奥州巡業に出立した。師匠の横綱谷風が3年前の寛政7年1月にインフルエンザで急逝、そのライバルの小野川も前年十月場所で引退したから、名実共に31歳の雷電が江戸相撲の第一人者となっていた。
 奥州巡業は秋田湯沢を幕開けに、北上して横手、さらに佐竹氏20万石の城下町久保田城(現・秋田市千秋公園付近)下で晴天十日間(7月15日から29日まで)の秋田場所。その後、ぐんと北上し陸奥との境、大達(現大館市)、そこから西へ一直線、ぬしろ(現能代市)、さらに人市宿(現・八郎潟町)での興行で羽後巡業を終えた。そこから日本海沿いに由利本荘市、にかほ市(象潟)を通って庄内の酒田から鶴岡へ行った。このルートは6年後の文化元年(1804)、象潟大地震の直後にまた通ることになる。その時には家屋は全壊、道は割れ、象潟は隆起して陸地になるなど大変な惨状で、雷電日記につぶさに書かれている(「雲の峰と雷電」第4回)。しかし、この時は平和そのものの旅であった。
 今回巡業の締め括りとなる庄内・鶴岡城下の十日間興行は雷電にとって大繁盛の楽しい場所だったようで、ハメをはずした自身の行状をめずらしく正直に書いている。
 「(羽後秋田の記述の後)それより羽州靎ヶ岡(山形県鶴岡市。以下鶴岡と書く)にて晴天十日相撲 乗金(契約金)八十両取る 木戸百弐拾五文(のうち)三拾文は元方(座元)に遣わし、九拾五文・四分取り申し候 四分は七拾両程御座候 惣じて百五十両ばかり取り申し候 此の相撲はんぢやう致し(候) 其の節 坂田(山形県酒田市)の佐藤清左衛門と申す者 坂田よりちかくし致し 川舟にて鶴岡まで送りくれ候 鶴岡に逗留致し 相撲に参り 支度部屋にて毎日毎日酒肴大吞みにて御座候 夜に入りてハおばすと申して女郎ちゃ屋参リ 大酒吞人ニ御座候 此仁 其後江戸表に参リ 四月比ヨリ八月迄逗留被致候 私方ニをり候
 其節坂田ヨリ鶴岡迄川舟之節 川口ニテ鮭あみを引かせ候所 壱あみに三十本程宛かかり 二あみ引きて五十本ばかり取り申し候 其内大ヲ五本ばかり参らせ 舟ニテ上り候 又 八ッ目鰻を壱かごあげさせ五升ばかりもをり候 それをもつて其夜 黒森(酒田市黒森)と申す村の名主之方ニ泊り候所 又 酒中くみよ蕎麦よ 夜中ニ餅をつく 夜通し酒 そば もちニテ夜を明かし 朝五ツ時比 川舟ニ乗り候ヒテ又酒を吞む 壱里ばかりも参り候 それヨリ上り 馬ニテ鶴岡へ参り候 其日 初日 御座候
 庄内相撲相済みそれより清川(山形県東田川郡立川町清川)と申す所に泊まり候ところ 此所迄女郎見送りニ参リ又夜中酒肴ニテ御座候 それより川舟ヲ上リ天堂(天童市)と申す所ニテ三日興行三拾両ばかりニテ取り申し候 それより山形ニテ二日四拾五両ニテ興行仕り候 (略)それより江戸表ヘ十月下旬ニ罷り帰り申し候 其時熊のかわ壱まへニテ帰り申し候」
 鶴岡は譜代大名酒井氏の庄内藩城下町、酒田は最上川河口の港町で商業都市、庄内米や上流の天童一帯で生産する紅花の積出港として、北前船の寄港地として大いに賑わった。酒田には豪商、富裕層が沢山いて奥羽地方最大の繁盛都市だった。日記にある雷電をもてなした佐藤清左衛門もそういった一人であろう。雷電一行を酒田で迎えた清左衛門は雷電と意気投合したらしい。酒田と鶴岡を結ぶ最上川支流と堀割を伝う川舟を仕立てて雷電一行を鶴岡に運び、そのまま自分も鶴岡に泊まり込み、毎日毎日相撲見物に来ては支度部屋に酒肴を持ち込んでの宴会。夜になると「おばすて(おばんです)」とやって来ては雷電一行を女郎茶屋(遊郭)に案内し宴会という大酒吞み。なんとこの人は翌年、江戸にやって来て四月から八月まで雷電の家に泊まり込んで遊び惚けたという。
 酒田でどんちゃん騒ぎのあと清左衛門は、雷電を舟で最上川河口に案内し鮭網漁をした。五十尾ほど獲ったなかから良いモノを五本選び、同時に獲ったヤツメウナギも五升ばかり持って、其の夜の宿泊所である黒森村の名主宅に持ち込んで大宴会。蕎麦を打ったり餅をついたりで夜明かしで吞み、五つ時(午前8時頃)にまた川舟で鶴岡城下へ行く時も酒、雷電は船着場から馬で場所入りし、初日の土俵を勤めた。こうして酒池肉林の鶴岡場所を終えて天童に向かったのだが、最上川の船着場清川まで20kmばかりを女郎達が見送りに来た。そこでまたまた徹夜の大宴会というのだからすごい。
 こうして五ヶ月にわたる長期遠征を終えて十月下旬に江戸へ戻ったが、みやげに「熊の皮一枚」を買ったというのが面白い。
  熊の皮恋女房へ土産とす
posted by 水牛 at 21:34| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。