2018年09月18日

俳句日記 (423)



シバンムシ

 七月末頃から書斎の中を小さな甲虫が飛んだり這い回ったりするようになった。刺したりせず、大した害も無さそうなのでそのままにしておいたら、だんだん増えて来た。目の前をふわふわ飛んだり、パソコンモニターの画面に止まってもぞもぞ動いたりするようになった。こうなると気になって、目の前に来たヤツをパチンと両手で潰したり、モニター上を這っているのをツバつけた指先に貼り付けて捕まえる。
 一体、何と言う虫なのか。フマキラーをかけて仮死状態にしたのを白紙に乗せて虫眼鏡で覗く。横にモノサシを置く。体長3.5ミリ。米粒の半分くらいしかないのだが、足が六本、黒褐色の堅い艶やかな羽を持ち、コガネムシを百分の一くらいにした姿だ。極めて小さいけれど何かの幼虫ではなく、これで立派な成虫のようである。手元の昆虫図鑑ではなかなか特定できず、インターネットであれこれ探った。小さな虫をピンセットで引っ繰り返しながら、図版と比べ、それらしき虫に関する説明を読んで突き止めた結果、「シバンムシ」という虫であることが分かった。
 これに違いない。しかし、一体これがどこから出て来るのだろう。我が書斎には足の踏み場も無いほど本が乱雑に積まれ、猫のエサや状差しや筆立てや酒瓶を立てた箱や小物類を入れた抽出や、その他もろもろが一杯ある。一つ一つ引っ繰り返して点検して、遂にシバンムシの巣窟を突き止めた。本棚の隅に置いてある雑物入れの箱だった。その箱には、薬草や刻んだ生薬の根茎や種子、小石を入れて襟巻形にした袋が入れてあった。肩凝り・頭痛持ちの私を心配してくれた旧友がくれた治療用襟巻きである。そこに小さな虫と幼虫がうようよ這い回っていた。こんな情景が山の神に見つかったら大変なことになる。「だから、アナタは・・」と絶叫して、書斎ごと燃やしてしまえと言い出し兼ねない。急いでゴミ袋に入れ、次の収集日の金曜日まで裏庭の植え込みに隠し、付近に殺虫剤を撒いて、とにかく一件落着した。
 それにしても「シバンムシ」とはどういう意味だろう。初めて聞く名前である。広辞苑には「シバンムシ科の甲虫の総称。体長2〜6ミリ。主として乾燥した植物質を食い、建築材、菓子、古書などを食害する云々」と出ていた。ネットをさらに検索すると、この虫に関するいろいろが出ており、「ミントをはじめ薬草や香草に好んで巣くう」とある。何の事はない、わざわざシバンムシの宿所を用意してやっていたのだ。そして、「シバンムシ」とは「死番虫」のこととあった。
 しかし「死番」というのがよく分からない。ウイキペディアを引いてみるとちゃんと出ている。成虫が雌雄相呼ぶ際に建材などに頭部を打ち付けて出す音が、死神が臨終の時を告げる時計の音に似ているというので、この虫にdeathwatch-beetleという名前が付けられ、それを訳して「死の番をする虫」となったらしい。
 人体に直接害を為す虫ではないらしいが、本を食い荒らすというのが困る。さしたる稀覯本などは無いのだが、俳句関係の江戸時代の和綴本など食われては困るものが何冊かある。それに何と言ったって、死神のお使いのような名前が良くない。それでなくてもこのところ天候不順も重なって体調不良が続いている。思いが暗く暗く落ち込んで行く。
  死神の使ひの虫や秋黴雨
  死番虫警世の鐘夜半の秋
posted by 水牛 at 20:58| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。