2019年04月29日

俳句日記 (484)


蕪村生誕地と興福寺吟行 (3)

気さくな貫首さん

 翌4月22日朝も良い天気。5時頃になると起き出す人が次々で、春日大社の方まで早朝散歩に出かけたりしている。こちらは知らん顔して寝坊を決め込むが、周囲のざわめきにいつまでも寝ては居られない。7時に起きて朝風呂を浴び、朝食会場に出かけた。もう全員そろってぱくついている。どこの宿屋にもあるような朝食献立だが、茶粥が添えられているところが奈良らしい。
 今日は今回吟行のもう一つの目玉、昨年10月に完成した興福寺中金堂を見学する。それにオマケがついて、興福寺の多川俊映貫首が本坊で茶を振る舞って下さるという。日経俳句会会長の中沢義則文化部編集委員が、多川貫首の「私の履歴書」の担当記者になった縁で、「薄茶を差し上げながらちょっと興福寺縁起でもお話ししましょう」ということになったのだ。それは有難いことではあるが、堅苦しいのは御免被りたい。みんな吟行スタイルでジャンパー姿などが多いし、第一、膝や腰を痛めているのが多くて、まともに正座出来る人がほとんど居ないのだ。「そのあたりの事をよく言っておいておくれよね」と頼んだら、中沢君「はいはい分かりました。でもね、多川さんはざっくばらんな人柄で、そんなこと気にしませんよ」と言う。
 まさにその通りだった。享保2年(1717年)に消失した伽藍を三百年ぶりに、天平時代の姿そのままに再建するという、「平成の大事業」を成し遂げた貫首である。さぞや威厳あるお坊さんだろうと思っていたら、モンペのような装束に輪袈裟を掛けて飄々と現れ、興福寺についての話をしてくれた。
 さてその中金堂、案内の若いお坊さんがあれこれ説明してくれた。実に壮大華麗な金堂である。白壁と朱の柱、黒灰色の瓦屋根の天辺に金色の鴟尾が勢い良く尾を跳ね上げ青空に映えている。金堂中央に安置されている釈迦如来座像も金色燦然。右手の円柱は法相柱と呼ばれる堂を支える数十本の巨大円柱の中心だが、ここには法相宗を伝えたインド、中国、日本の高僧が極彩色で描かれている。当然と言えば当然なのだが、すべてがまばゆい。くすんだ古色蒼然たる寺院や仏像に慣れた眼からすると、けばけばしくて有難味が薄いようにも思える。しかし、これこそ天平時代の出来たばかりが生まれ変わって出現したのだ。
 国宝館へ行く。ここはもうお馴染みだ。あまりにも有名な「興福寺の阿修羅像」。じっと見入ると心が落ち着く。奈良へ行けば必ず興福寺の国宝館で阿修羅を拝むのだが、ここで私が一番好きなのは実は板彫りの十二神将である。それぞれ個性豊かな表情と姿で、何度も何度も見直す。いくら見ていても見飽きない。
 昼食はまた元来た道を辿って、飛鳥荘の近くの蕎麦屋「季のせ」。まずは蕎麦掻きと蛸の天麩羅などで、奈良の銘酒「春鹿」超辛口、もう一つの老舗豊澤酒造の「豊祝」を飲む。十割蕎麦は少々洗練され過ぎている感じがしたが、美味いことはうまい。別に取った海老天蕎麦がとても旨かった。「関西で蕎麦か」などという雑音があったが、今日ある麵状の蕎麦は元々は奈良で生まれたものである。大昔から日本人は蕎麦も饂飩も食べていたが、蕎麦粉は粘着力に乏しく、粉を練って伸ばして切るとばらばら、ぶつぶつ切れてしまう。しょうがないから粉を練って丸めたり平たくしたのを湯がいて「蕎麦掻き」にして食べていた。それを江戸時代の初め、東大寺の賄い方の坊さんが蕎麦粉にうどん粉を混ぜて捏ねて平に延ばして切れば、麵状のものが出来ることを発見した。これが「蕎麦切り」として全国に広まったのだ。というわけで、奈良で蕎麦を味わうのは至極真っ当なことなのである。
 一同昼の旨酒に大満足。お勘定も前日収めた「宿代含めて二万円」の中にぴったり納まって百子大幹事の腕前に驚嘆。ここで「蕪村生誕地と興福寺を訪ねる吟行会」はお開きとなった。行を共にしていた三四郎句会の面々とは既に興福寺で別れており、昼食懇親会の20人もここから三々五々散ることになった。
 水牛は涸魚長老と鷹洋、二堂と「久しぶりだ、東大寺の大仏さまを拝んで行こう」とタクシーで浮見堂を経由して山門前まで。修学旅行の中学生と外国人観光団体がひしめく中をかいくぐり、大仏殿を一周、さらに二月堂まで行く。しかし、二月堂の山の麓まで上って来て、さあこの急階段。皆々尻込みして、茶屋でソフトクリームをなめて仰ぎ見るに留めた。
  中金堂鴟尾のひかりや夏隣     酒呑洞水牛
  春愁と無縁もんぺの貫首さま
  包装紙令和と変へて春の餅
  煎餅くれと辞儀する鹿や暮の春
posted by 水牛 at 23:11| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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