2019年06月06日

俳句日記 (494)


水牛洞謹製梅酒・梅干(1)

 梅酒と梅干を30年以上作り続けている。亡父は酒が一滴も飲めない体質だったが、どういうわけか梅酒を作っていた。我が家の新年のお屠蘇は自家製の梅酒と決まっており、酒が飲めない父もこの梅酒は小さな盃に一杯だけ飲んでいた。梅干は好物だったからよく漬けていた。というわけで物心つく頃から梅酒の美味しさを知っていたのだが、新聞記者になって忙しい日々を送る若いうちは梅酒、梅干などには目もくれなかったし、海外生活が長かったから梅を漬ける習慣などは全く身についていなかった。それが、五十の声を聞くようになって突然、やり始めたのだから、やはり子どもの頃、両親がせっせと梅漬けしていた姿が脳の隅っこに焼きついていたのだろう。
 梅干作りの肝心要は、原料である梅の実の熟し具合を見極める事が第一。そして、漬け込む容器と塩加減と重石と、漬け込んでから一週後の「漬け返し」である。さらに、七月末の「土用干し」を律儀にやれば万全である。
 まず梅の実だが、基本的に梅酒用はまだ見るからに硬そうな青梅が良く、ほんの少し青から黄緑がかってきた頃合いが梅干向きである。次に容器選び。大昔は木の樽か甕に漬けていた。しかし、シロウトには樽はダメである。雑菌がはびこってカビが生え、すべておじゃんになってしまう。陶器の甕も顕微鏡的な微細な穴があり、そこにカビの原因が浸み込んでいる恐れがあるので熱湯消毒か焼酎洗いをする必要がある。これが意外に面倒である。そこである年からホーロー容器にした。これは梅干漬けには最適である。
 塩加減は漬ける梅の重量の20%の粗塩と決めている。梅が10キロなら粗塩2キロである。「塩分控え目」が流行り言葉になって、デパートの食品売場には「塩分5%梅干」などというのが売られている。料理の先生がテレビでまことしやかに「塩分5%」で梅漬けを教えたりしている。すべてウソである。温暖湿潤の日本で「塩分5%の梅干」は絶対に出来ない。必ず腐敗してしまう。重量比10%の塩で漬けてもカビが浮いてくる。これを防ぐには5キロの梅に対して35度焼酎を300ミリリットルくらい振りかけて漬け込めば何とか漬かる。
 重石は最初は梅の実の1.5倍を掛け、水が上がって来たら同量に減らす。この途中、漬けて一週間たった頃、一旦、梅を全て取り出し、また漬け直す「漬け返し」をする。こうすることで、重石がかからなかった梅も圧され、翌日、さらに梅酢が上がってくる。こうなればしめたものだ。
 江戸時代から昭和時代まで、梅干の塩分は30%から35%だった。天然の塩は空気中の湿気を吸って液状化してしまう。そこで昔の人は塩の貯蔵や遠方に運ぶ方法として、魚、肉、野菜などに塩を浸み込ませることを考え出した。「塩漬け」である。これは魚介、野菜の貯蔵法にもなる。それで塩鮭、ヘシコ、塩辛、しょっつる、野沢菜塩漬、沢庵漬などが生まれた。その代表選手が梅干である。つまり、梅干はおかずの役割と共に、調味料としての役割も担っていたのだ。
 漬物や塩干物に「塩分供給」の役目が無くなり、嗜好品になってしまった今日、急に「塩分控え目」が言われるようになった。しかし元来、強烈な塩分によって引き出されていた「旨味」が、薄塩では出ない。そこで化学製品の「旨味調味料」を添加したりする。腐敗を抑えていた塩分が減ったために、防腐剤が添加される。それやこれやで、塩分を控えたことによるメリットよりも、その数倍も害悪を及ぼす添加物まみれの食品が横行することになった。
 「塩分5%」「3%」などと書かれた梅干は決して食べてはいけない。元々は30%以上の強塩水に漬けた梅をタンクで脱塩し、それに人工調味料や蜂蜜などを加え、防腐剤をまぶしたシロモノなのだ。見てくれは素晴らしい。特大南高梅などと銘打って、赤ん坊の握り拳ほどもあろうかという巨大な梅干。口に含めばしっとりと、塩味も甘みもほのかで、いかにも上品だ。しかしこれは最早、自然の食べ物ではない。人工的なケーキと同じ、薬品まみれの食物である。
 梅酒も同じである。水牛梅酒は「梅1.5キロ、氷砂糖1キロ、35度焼酎1.8リットル」で、これ以外何の混ぜ物は無い。テレビや新聞で大宣伝している梅酒はこんなに沢山の梅の実を使っていない。さらに添加物の疑いも濃厚である。
 というわけで、「水牛洞謹製」の梅干、梅酒は見栄えは良くないが味はいいから、結構な人気である。先日など、双牛舎ブログ「みんなの俳句」に『梅漬ける一言居士の鼻眼鏡』という句が出た。作者の賢一さんも水牛梅干のフアンで、「もらうからには退屈な梅干談義も我慢しようか」というクチである。
 今年も梅漬けの時期になった。しかし、昨年、我が家の梅の木はアブラムシ退治を兼ねて大剪定したために、今年は漬けるほどの梅の実が採れない。はてさて困った。
  両腕に引っ掻き傷の梅実取り    酒呑洞 水牛
posted by 水牛 at 20:38| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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