2019年11月11日

俳句日記 (543)


難解季語 (43)

目貼(めばり)

 昔の住宅は隙間だらけだった。第二次大戦の敗戦直後のバラック住宅などはひどいものだった。最近の地震、台風などに襲われた人たちの仮設住宅は昭和20年のバラックで過ごした身からすれば豪華住宅に見えるが、何くれと無く行き届いた住宅から避難して来た人たちにとってはやはりあれこれ不自由をかこつ住まいなのであろう。
 それはさておき、木造建築は建てた当座は扉や窓と柱はぴったり合わさり、ぴしゃりとしているが、年と共に材木が乾燥し、痩せて来るに連れて隙間が出来る。夏場は風通しが良くてむしろ都合が良いのだが、冬場になると隙間風が吹き込んできて大変だ。
 暖房と言っても昔は、田舎では囲炉裏、都会では炬燵に火鉢、裕福な家でストーブといったところだから、この隙間風というものが悩みの種だった。首筋や背中に隙間風が当たると、年寄りや幼い子供はたちまち風邪を引いてしまう。
 昔の家屋の大敵は「雨漏り」と「隙間風」だった。雨漏りを防ぐ為に村では屋根の修繕・葺き替えを順繰りに共同で行う「組」を作った。隙間風防ぎはそれほどの大工事にはならないので、それぞれの家が家族ぐるみで壁と柱の隙間に紙を貼り付ける「目貼」をした。東北、北陸、山陰など厳しい冬を過ごす地方では目貼は初冬の必須の作業だった。
 これに加えて、豪雪地帯では窓の外側に板を打ち付けて覆ってしまい、さらにその外側に吹雪を防ぎ止めるための柵を設けた。こうした防寒対策が施された東北北陸地方の人たちは12月から3月頃まで、暗い冬をじっと蹲って過ごした。だから、お日様が照って、雪が溶け、窓を開けることの出来る春は大いなる喜びである。「目貼剥ぐ」という春の季語には、北国の人たちの喜びがはちきれんばかりに籠もっている。
 しかし、今や日本全国住宅は完全暖房、コンクリート造とサッシ建具の普及で機密性の高い住宅になって、「目貼」の出番は全く無くなった。今日この頃、若い女性に「めばり」と聞けば、睫毛や目の回りにぎとぎとと塗りたくる墨のことかと言われてしまう。

 首の骨こつくり鳴らす目貼して    能村登四郎
 目張して空ゆく風を聞いてゐる    伊東 月草
 出稼村いよいよ無口目貼して     仲村美智子

 ひもじいよ目貼の糊を舐めてゐる   酒呑洞水牛
posted by 水牛 at 22:23| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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